東京国際フォーラム ホールC 14時開演
演出・美術:ロバート・ウィルソン
音楽・作詞:トム・ウェイツ
原作:ゲオルク・ビュヒナー
強烈な視覚イメージの連続である。どのシーンもひとつのアートとして成立しており、観る者を捉えて放さない。何を削るかを決めることがアーティストの一番大事な作業であるとも言われるが、この作品も、一旦ぎりぎりにまで削ぎ落とした上で、再度彩色していくといった過程を経ているのか、様々に変幻する場面に無駄がなく、人の存在を含む全ての要素が常にシンボリックにその存在意義を強烈にアピールし、更にイメージを喚起させられると言った具合だ。
ミニマルでありながらパッショネイト。相反するかに思えるこのアプローチが双方共存するという稀有なステージをロバート・ウィルソンは作り上げた。
トム・ウェイツの音楽もまた、この作品の大きな要素のひとつである。咽び泣くような、語りかけるような、独特のメロディーは勿論期待するところだが、リズムをバラバラにして繋ぎ合わせたような、クルト・ワイルの「三文オペラ」を彷彿とさせるような節回しも見られ、そのヴァラエティさで観客を飽きさせることが無い。また、ブロードウェイ・ミュージカルのような張り切り具合が無いため、ゆったりとした時間の流れの中に身を任せることが出来た。
衣装もまた、人物ごとに色分け・視覚化されている。妻マリーが体現する赤のイメージは、全編を通してアクセントとなっており、いつも付いてまわるものとしてのヴォイツェクの心象風景を伺わせる。但し、呪縛感は無く、カンディンスキーの絵画のごとく整然と在るべき場所にきちんと収まっているという感じだ。
話は物凄く悲惨なのだが、どのシーンにおいても登場人物はモダンダンスのごとくある種の動きをなぞりアーティスティックに振舞うため、キューブリック映画の役者がそうであるように、何かで悩んではいたとしても嬉々として前向きに見えてくるから暗くならずにすんだ。
「不安」「狂気」「破壊」という現代にも通じるモチーフを、肩の力を抜いて観れる作品として構築した視覚芸術として、この「ヴォイツェク」は一級品の出来映えであろう。
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