ああ、女性たちは、皆、こういうものが観たくて度々劇場へと足を運んでいるのだなあ、ということが良く分かった。
この「ルドルフ」であるが、ハプスブルク家の皇太子・ルドルフが男爵令嬢マリー・ヴェッツェラと不倫して自殺する話である、と概略だけを語ってしまうと味も素っ気もない。皇帝である父との確執、ハンガリー独立を願う勢力の胎動に心動かされ、冷え切った妻との関係性に苛立っている悩み多き青年が運命の女性と出会い、運命の歯車を狂わせていくのである。霧の中に差し込む光、救いの神! ロマンス小説と言うなかれ。歴史的史実に基づいた物語、なのだ。
宮本亜門は、その逡巡するルドルフの苦悩を徹底的にエンタテイメントとして描き出す。観客が思考せずとも分かり易く語られる華やかなロマンス、そして、悲恋というシンプルな物語。宮廷生活というセレブなライフ・スタイルも疑似体験出来る、目にも鮮やかな舞台美術やデコラティブなコスチュームやアクセサリー。そして、美男美女が歌い上げる歌の数々。まさに、夢のワンダーランドのような世界が息も吐かせぬスピードで繰り広げられていくのだ。
絢爛豪華な紙芝居とも、少女漫画趣味とも言えなくはない。しかし、五感にのみストレートに訴える方法は、ある意味潔いとも思える。五感を震わせることで、アタマの中がスッキリとクリアになるのだ。心情や言動を深読みしたり考えたりする必要がないことが、実はとても楽しいのだということに、今更ながら気付かせられた。
タイトルロールを演じる井上芳雄は、舞台全体を牽引する主役としてのパワーに溢れていた。また、彼が醸し出す清潔感は物語の中で純化され、作品全体に叙情的なニュアンスを与えることになった。また、笹本玲奈の明晰な演技は、作品に明るい印象を付加していく。資質が違うふたりであるからこそ出せる広がりがある。岡幸二郎は、笹本玲奈と歌の舌戦を展開するシーンが圧巻。そして、重鎮・壌晴彦。彼が出演していなかったら作品にこれ程までに人間的な厚みを与えることが出来なかったはずだ。劇団四季で培った朗々たる歌いっ振りも見事である。ベテラン勢を脇に配した贅沢なキャスティングの醍醐味を堪能させていただいた。
初日ということもあり、カーテンコールには主要スタッフの方々が登壇した。皆、過去にオーストリアという地で起こった出来事を、このように再生出来る喜びをかみしめていた。また、井上芳雄は、この舞台が新作ミュージカルということにも関わらず、1ヶ月弱という短期間で作られたことの大変さを語ったのが印象的であった。ドンドンとシーンを固めていかなければならないにも拘らず、宮本亜門はもっともっとと、いろいろな要求をしていたようだ。モノを作る時の、ギリギリまでこだわる姿勢は大切なことだなと感じ入りました。
開演直前まで雑事に忙殺されていたのだが、観ている内にスッカリ舞台に引き込まれていった。しかし、観終わって暫くすると、舞台のことはスッポリと抜け落ちていた。まあ、それはそれで、いいのかもしれないですね。
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