本作最大の見どころは、今、旬の俳優の競演が堪能出来るというところにあるのではないか。生田斗真と菅田将暉は映画などでヒット作を連打する、実力と人気を兼ね備えた逸材である。そんな売れっ子をナマで観れるというのが演劇の醍醐味。客席からは、若い女性の熱い視線が舞台に注がれることになる。
用意されたテキストが、トム・ストッパードの「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」とは何とも渋い。俳優なら演じてみたいと思う演目ではないかと思うが、こういう高い山を用意したプロデューサーの慧眼には平伏する。観劇慣れした観客には楽しみなところであるが、俳優目当てで来場した観客はどのように感じるのであろうか。
分かりやすい物語にしか接していないと、可視化されていないものは甘受出来難くなる感性に陥る危惧も出てくるのではないか。本作の様な想像力を掻き立てられる作品に人気スターが出演することは、文化の裾野を広げる好機になると思う。トム・ストッパードに初めて遭遇する観客も多かったのではないだろうか。
観客が劇場内に入ると緞帳が上がった舞台が眼前に現れ、舞台上に置かれた物や布などをスタッフの方々が片づけたり、掃除を行っている光景が上演前から繰り広げられていく。ステージと観客席との境界線が、上演前に自然に取り払われていく。
スタッフが運んできた布が舞台のセンターで止まり、そしてはけると、生田斗真と菅田将暉の姿が現れ、台詞を語り始める。スッと劇世界へと没入できるスタートだ。この導入から、ローゼンクランツを演じる生田斗真と、ギルデンスターンを演じる菅田将暉のキャラクターがくっきりと浮かび上がっているのが見事である。
物語の中心に立つ生田斗真と菅田将暉は、やはりオーラ全開だ。ボケのローゼンクランツに、ツッコミのギルデンスターン。役柄的には、逆ではないかとも思うキャスティングの妙もなかなか面白い。この意外性も、作品を牽引する大きなパワーとなっていく。思考を要する物語に、魅惑的な俳優が配されることで、説得力が生まれるのだということも実感することになる。
トム・ストッパードが築いた世界観を、生田斗真と菅田将暉は易々と凌駕しているかに見える。いや、実際は易々である訳はないと思うが、二人から発せられる溌剌としたパッションとスキルによって、巨匠が描く戯曲が生々しく立ち上がっていくのが何とも楽しく映るのだ。林遣都のすかしたハムレットも、運命に翻弄されるローゼンクランツとギルデンスターンと好対照を成す存在として印象的だ。
小川絵梨子の手綱捌きも見事に、トム・ストッパードの世界を生田斗真と菅田将暉が生き抜く様がリアルに立ち上がる秀作に仕上がったと思う。旬の役者が名作を演じることで、作品を活き活きと甦らせることが出来るのだという可能性をひしと感じた同作でもあった。
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