感動した! こんなにも演者が、思う存分、溌剌とイキイキ動き回っている姿を観せてくれ、また、観客にもその演じている楽しさがストレートに伝わり、何だか、ガツンと熱いハートを直球で投げ込まれたような震えがきた。
服部有吉の公演であり、彼が目当てで集まった観客も多いであろうが、ダンスに関しては、服部有吉は自らがメインで前面に出過ぎることなく、他のダンサーたちといいバランスを保ちながら、コラボレーションしていることも、好感度がアップした要因のひとつだ。ダンサーたち皆に均等な見せ場を作ることで、それぞれの個性が引き立ち、作品全体にふくよかな広がりが生まれてくるのだ。
また、金聖響のタクトにも敬意を払っていることが観る者にも心地良く、シーンによっては、音楽演奏だけたっぷりと聴かせる場面もあるくらいである。ジャズピアニストの松永貴志とのセッションにもいい緊張感があり、即興風演出を織り交ぜながら、観客の心をグイとステージに魅き付け離さないテクニックにも脱帽である。
ドビュッシーの「月の光」から、ステージは始まる。プロローグの位置付けであるが、6人のダンサーたちが、それぞれ別々の動きを見せることで、観客に集中力を喚起させ、一気に舞台へと目が釘付けにされていく。途中で、迷彩パンツに黒いタンクトップのHIPHPOのりのジェト団のような一群が現れ、微かな驚きがあった。6人の個性あるダンサーたちと、若手のダンサーとの融合! 本公演のテーマを視覚化する意味でも、このチームは絶妙な編成であると思う。
音楽は、メンデルスゾーン「イタリア」、バーバー「アダージョ」、シェーンベルク「浄夜」と続いていく。一旦休憩を挟むが、この3曲で、あるひとつのストーリーが展開されていくことになる。融合、コミュニケーション、伝承というワードが観ていて浮かび上がってくる。
あること、例えば伝統のようなものを伝えていく場合、当初は着慣れない燕尾服をまとうようなことかもしれないが、装うことで慣れ親しみ、そこから新たなものが生まれるかもしれない。しかし、新しさも慣れると権威にすり替わることもあるだろう。そうすると容赦なく引きずり下ろされることにもなりかねない。そういう時は、いっそのこと、一旦全て脱ぎ去り孤独な身に自らをさらすことで、次なるステップに進んでいけるのではないか。しかし、最後は、人だ。人を理解し気持ちを融合させることで、初めて深くコミュニケーションが出来、信頼が生まれてくるのだ。何だか、彼らの舞う姿から、そんなことを感じていった。服部有吉のダンスには、物語がある。そしてそこから詩情が立ち上ってくるのだ。そこが、心の琴線に触れ、気持ちが揺り動かされるのであろう。
ダンサー同士が、肩や足を叩き合う仕草が印象的だ。殴る、のではない。この、叩き合うスキンシップ! 意外にも、忘れていた、何か、を思い出させてもらった気がした。
そして、最後はタイトルにもあるように、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」で、皆が弾け飛ぶ。自分の技を競い合う子どものように、皆が超絶のテクニックを存分に披露してくれる。いやあ、実に楽しそうで、ウキウキしてしまう。そして、冒頭の「月の光」でエンディングを迎える。オーラスは、オーケストラ団員が徐々に席を離れる中、松永貴志にスポットが当たり、そして最後に、誰もいないステージに残る金聖響にスポットが当たり静かに溶暗していく。紗幕が下りる。
カーテンコールもいいなあ。スルスルと紗幕が上がると、先程迄は席を離れていたオーケストラ団員全員が揃っているのだ! この粋な演出といったら! 最後の最後まで、演出の細かな気配りが行き届いているのだ。アーティストの旬を感じさせてくれる、稀有な公演であったと思う。感動した。
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