2005年 10月

今回、音楽を担当されている川崎晴美さんの計らいで、席を取っていただいた。有難うございます、川崎さん!!

その川崎さんの軽快なメロディーに乗り会場は暗転となる。プロセニアムに張られた暗幕に作品のタイトルが映写される。4人芝居であり、その4人の関係性をタイトルにしている作品であるので、改めて映し出される文字を見ることで、その設定が念押しでアタマに刷り込まれるという仕掛けだ。また、竜馬、であるので、和物の芝居であるのだが、敢えて音楽は、和を意識することなく、往年のハリウッド映画を彷彿とさせるような、楽しみに満ちたこれから始まる物語の期待感を煽る華やかさを放ち、和というより、コメディであることに重点を置いた展開になっていくことを予感させる。山田演出の狙いが、明確に現れた幕開きだ。

石井強司の美術と宮野和夫の照明が素晴らしい。舞台は、平田満演じる松兵衛が住む小汚い長屋の一室のみで演じられるのだが、その部屋の煤けた窓や柱など全体的に汚しのかけられた古さが温かみを感じさせ、また、ほの暗い部屋の中の人物をほのかに浮き立たせせる明かりが、登場人物の心情を微かに反映させたりして舞台上で役者と呼応する様が、シンプルなこの芝居のアクセントになっていた。

舞台はと言うと、まず、台本が圧倒的に面白い。人が一筋縄でいかないものであることを徹底的に面白がり誤解や勘違いをどんどん拡大させ、また、いろいろな状況や会話によって登場人物の心情が変化する様をこれでもかと言う位追い詰めていく。ギリギリのところに追い込まれた人間の慌て振りや開き直り程面白いものはない。4人の登場人物は絶妙のタイミングで出はけを繰り返しながら物語を展開させ、最後には、それぞれの本当の心情が吐露されていくといった具合だ。三谷戯曲の凄さ、圧巻である。

佐藤B作の余裕綽々な存在感と、軽いいい加減さが独特の味を醸し出す平田満との掛け合いが絶妙である。微妙に噛み合うことのない二人の落差が可笑し味を生み出していく。そして、それが笑いへと繋がっていく。沢渡稔の飄々振りも面白い。愛すべき小賢しさとでも言うべきであろうか。一見立派な人物に見えても裏を返せばただの人、みたいな意地悪な三谷戯曲の視点が小気味良い。あめくみちこの、世をすねた諦めというものが逆に生きていくパワーの源になっているような女の強さが、右往左往する男どもの中で決して揺るがぬ地軸となり、物語を中心から支えている。

そういう役者の個性を大いに引き出した山田演出も特異に値する。そして、いつの時代も変わらぬ男女の駆け引きというものをウェルメイドコメディとして仕上げ、幕末という時代に変に捉われることなく、普遍的な人間の物語として作り上げることに成功した。冒頭に記した音楽の軽快さも、物語が和に土着しないようスッと引き上げる効果を表している。

観劇した日は、仕事のことで実に様々な問題を抱えながら観始めたのであるが、芝居が始まるとだんだんと仕事のことはアタマから離れ、その内、すっかりと芝居の世界に入り込んでしまっている自分がいた。こういうひと時の楽しみのために、人を楽しませるために、芝居はあるのだなと実感した次第である。来年6月位まで、全国を巡演するとのこと。まだ、機会はあると思うので、是非、ご覧になってみることをお薦めします。

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