歌舞伎座 午後6時15分開演
作・演出:野田秀樹
美術:堀尾幸男
衣装:ひびのこづえ
出演:中村勘三郎、中村七之助、中村橋之助、中村勘太郎、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村扇雀、中村福助、坂東三津五郎
新歌舞伎十八番「紅葉狩」がまず初めの演目だ。能の「紅葉狩」を題材に、河竹黙阿弥が作詞をした作品である。勘太郎が艶やかに、橋之助が偉丈夫に、赤い紅葉が華やかに、歌舞伎座の舞台を美しく彩っていく。
休憩を挟んで「野田版 愛陀姫」が開幕する。幕が開くと、舞台中央に日比野克彦のダンボールアート・テイストのような、壁にもビルにも見えるオブジェが鎮座しているが、アッという間にオブジェはスルスルと舞台左右一杯に広がっていき、町並みの風景となる。蛇腹のように折りたたみ式になっているのだ。この転換がほんと一瞬の間に起こるので、感嘆の声が客席から洩れる。装置は堀尾幸雄だが、この冒頭のイメージは、私見ですが、日比野克彦の世界なんですよね。奥様が衣装を担当されていますが。オッと驚嘆させられるこの幕開きで、舞台にグッと引き付けられる。つかみはOKだ!
堀尾幸雄の美術は、続く城内の場面でまた観客を楽しませる。全て金づくしの城内の装置に会場がドッと沸く。理屈なんていらないですね。ひびのこづえの衣装も艶やかだ。色の合わせ方がシックである。模様の大胆さも大きなアクセントだ。
囃子や三味線の他に、バイオリンやトランペットの音が混在する音楽もまた斬新。能管奏者に、一噌幸弘さんのお名前もあった。
ヴェルディのオペラ「アイーダ」を歌舞伎に翻案するという、そもそもの発想が奇抜で斬新だが、出来上がった作品は、愛と戦いに翻弄される男女のしっとりとした悲恋物語に仕上がっていた。台本だけ読み説けば、現代劇としても通用すると思うのだが、歌舞伎役者が歌舞伎の技法で演じれば歌舞伎になるのだという、この揺ぎ無い絶対性に、歌舞伎世界の懐の深さを感じ取る。勘三郎は、その裾野を内からドンドンと押し拡げていくトップランナーだ。果敢な挑戦に、本当に、毎回目が離せない。
勘三郎演じる城主の娘・濃姫は、七之助演じる端女である敵方の囚われの姫・愛陀姫と、同じ男を愛してしまう。橋之助演じる木村駄目助左衛門である。そこで濃姫は、扇雀と福助が演じるインチキ祈祷師を使い、策略を巡らせ始める。この恋愛を縦軸とすると、彌十郎演じる城主・斎藤道三と、三津五郎演じる愛陀姫の父でもある敵国の総大将・織田信秀との戦いが横軸として広がり、この恋愛事情に更に複雑な様相を付け加えていく。
七之助のはかなげな色香がいじらしく涙を誘う。対する勘三郎は、一途な想いを叶えるために腐心する濃姫を演じて狂おしく、笑いを一切封印して、恋の成就に邁進する。祈祷師演じる扇雀と福助が、コメディリリーフを受け持つ。荏原に細毛というネーミングにも笑わせられるが、シェイクスピア作品にもあるように道化が語り部のような役回りも持ち、物語の顛末を客観的な立場で目撃していく。橋之助にグッと貫禄がついた。従来の軽やかさにドッシリとした重みがつき、演技の振幅の幅が更に広がった。声にもグッと重みがついた。彌十郎、三津五郎がガッシリと脇を固め、芝居をキリリと締める。
シリアスな悲恋を描いて終焉を迎えるが、会場にしっとりとした余韻を残す作品であった。溌剌とした演目もいいが、野田秀樹が歌舞伎に取り組んで3作品目。NODA MAPでもあまり描かないストレートな恋愛物語に、また、次なる仕掛けはどうくるのであろうかとついつい思いを馳せてしまう。
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