緞帳代わりにゴールドのカーテンが舞台に降ろされている。さて、開演となりました。舞台端のオーケストラ・ピットから音楽が奏でられ始める。あれ、最近はあまり遭遇しない、オーバーチェアなんですね。その音に合わせてカーテンの色が照明によって変化してくこの演出がイイんですよね。だんだんと実に豊かな気持ちになっていきます。
幕が上がった時から、ジャパンメイドのミュージカルとは一線を画す作品なのだということが分かってくる。勿論、イギリスカンパニーバージョンなので、出演者も外国の方々、台詞も英語だという要因もあるのだとは思うが、ステージの空間を埋める作品の濃度の濃密さが、かなりのインパクト大なのだ。
ケリー・オハラと渡辺謙というスターが勿論中心に屹立しているのだが、その二人だけに作品が集約していくことなく、子役に至るまでどの俳優も自分が主役だとでもいうべき存在感で、それぞれの役柄を生きているのだ。いい意味で、登場人物たちがバチバチと拮抗し合っているのが、実に小気味良い。
見事なコラボレーションは俳優陣に限ったことではない。メインストリームである楽曲とその演奏は勿論のこと、美術、照明、衣装などなど、作品をカタチ造るあらゆるパートが最良のクオリティを提示することで、クリエイティビティがグルーブしているのだ。
主演俳優や演出家のヒエラルキーに引っ張られる過ぎることのないパワーバランス。各パートがぶつかり合いつつも、それぞれの力量が集積して1つの作品を実に強靭なものにしている。その強さがある種のオーラとなってステージから溢れ出て、観客を魅了する。
本作が、今、上演されることの意味に考えを巡らせてみるのだが、きっと、どの時代にでも観る者の心に刺さる作品であるからこそ、ロングランを重ねてきたのだということにも気付くことになる。文化の違う人間同士の葛藤、溶解、そして友愛。出自の異なる者同士が理解し合うということは難しく、それを超えていこうとするには、どの時代においても不変なテーマなのだということに感じ入る。
人間が持つ、逃れられないある種の暇しさに斬り込み、それをエンタテイメントとして提示するため、グッと前のめりになっていくのだ。だから、2019年の時代においても決して古びることなく、新鮮な輝きを放ちながら観客を魅了する。
極上のワインを飲んだような感じとでも言おうか、最初は名のあるワイナリーのラベルに引き寄せられ此処に参上することになるのだが、時が経過していく内に、実に様々な風味のアクセントが感じられるようになってくる。色も変化していく。それを感じられるのが実に楽しいのだ。そして、終盤に向けて、テイストは1つにまとまり、これが本領なのだとでも言える奥深いコクある最上級の美味しさへとまとめ上げられることになる。
芝居を観るというよりも体験をしたという言い方の方が適切なのかもしれない。名作の見事なリバイバルに心底酔い痴れることが出来た一級品であった。
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