劇評325 

演劇としてもアトラクションとしても満足できる娯楽作の極み。

 
 
「髑髏城の七人 season花」

2017年4月15日(土) 晴れ
IHIステージアラウンド東京
18時30分開演

作:中島かずき 演出:いのうえひでのり

出演:小栗旬、山本耕史、成河、りょう、
青木崇高、清野菜名、近藤芳正、
古田新太 / 河野まさと、逆木圭一郎、
村木よし子、磯野慎吾、吉田メタル、
保坂エマ、他

場 : 客席が360度回るというIHIステージアラウンド東京の杮落し公演。もちろん初訪問です。豊洲駅から歩いてみましたが、10分ちょっとで劇場に到着しました。エントランスからは劇場の大きさは良く分かりませんが、劇場内に入るとひたすらデカいです。このフロアが回転するのかと思うと、ドキドキしてきますね。

人 : 満席です。様々な人々が集っています。開演直前に、演出のいのうえひでのり氏が客席に入り、客席最後方のパイプ椅子に座る姿が見えました。

 本作最大の興味は、客席が360度回るというIHIステージアラウンド東京が、そのステージであるということだ。劇団新感線の節目とも言えるタイミングで、度々、上演されてきた演目であるが、1年間を4つのカンパニーで突っ走るという企画の杮落しである本作への期待感は高まるばかりだ。

 こういうワクワク感が感じられる演目というのも早々あるものではない。エンタテイメントとしての要素を抱合したプログラムでない限り、同劇場でのロングランは有り得ないと思うが、劇団新感線に白羽の矢が立ったのは納得である。演劇という枠を超越し、映画館においても上演作品を上映するなどの多岐に渡る展開が、多くの人々の支持を得ている実績は燦然と輝いていると思う。

 劇場の構造をお話ししてしまうと、劇場内の周囲に様々な場面の美術が仕込まれており、各シーン毎に客席が動くと、眼前にはその場の装置が仕込まれたステージが現れるといった具合だ。客席が動いているのがリアルに体感出来、さて、次はどんな世界へと誘ってくれるのかという期待感が絶えず継続する演劇というのは、何とも新鮮だ。

 シーンとシーンとの繫ぎ目は、映像がそのブリッジの役割を果たしていく。期待感を高める音楽も、観客の気持ちをザワザワとさせる効果を放っていく。幕間も飽きさせない仕掛けが施されているのだ。

 ステージを華やかに彩る俳優陣の外連と、計算し尽くされた緻密なタイミングを逃さず進行するスタッフワークとが見事に融合する。更には、観客も含めて劇場内が一体化する効果を、360度回転シアターが促進させていく。三位一体とも言うべきエンタテイメントの理想の姿が、ここに形成されている。

 本作の中心に聳え、物語牽引するのは小栗旬である。線が細いながらも、まさに旬の俳優が放つオーラ−は他の追随を許さない存在感だ。また、色香を放ちながら、キレの良い殺陣でバッタバッタと斬りまくる姿は、何とも格好いい。

 山本耕史の殺陣もスピーディーで魅力的だ。コロコロと変転する心持ちを、安定感ある資質で底支えしているため、その存在にぶれがない。ある種、現実を超越した孤高の存在にも見えてくるのが面白い。

 成河が悪の権化のような役回りを担うが、貫禄で押し切らないキャラクターが、かえって狡猾さを浮き立たせる。りょうが気風のいい遊女を艶やかに演じ、斬った張ったの世界に一服の清涼感を与えてくれる。

 しかし、何と言っても登場するだけで劇場を沸かせる古田新太の存在は、やはり凄い。その一挙手一投足から目が離せなくなっていく。古田新太が存在するだけで、劇場は笑いに包まれる。エンターテイナーの醍醐味をたっぷりと堪能させてくれる。

 近藤芳正の渋さ、青木崇高の洒脱さ、清野菜名の爽やかさも、作品に強烈なアクセントを付加させるなど、俳優陣の個性を掴み出し最大限に拡大することに成功している。仕掛けが満載のステージなのであるが、その外連に引っ張られ過ぎることないのは、舞台上で人間がしかと生きているからに相違ない。

 カーテンコールで客席がグルリと回転する中、観客席を取り囲むステージが全て開陳する光景は圧巻だ。演劇としてもアトラクションとしても満足できる娯楽作の極みだと思う。これからのシーズンの公演はキャストも演出も一新するという。どのような変化を示すのか、見届けたいなと思わせる魅力に満ち溢れた作品であった。


過去の劇評はこちら→劇評アーカイブズ