劇評258 

観客を楽しませることに徹したエンタテイメント性に溢れ、楽しさ一杯の出来上がり。

 
「ショーガール」

2014年8月31日(日) 晴れ
PARCO劇場 17時開演

脚本・作詞・構成・演出:三谷幸喜
作曲・編曲:荻野清子 
出演:川平慈英、シルビア・グラブ
演奏:荻野清子、一本茂樹、萱谷亮一

   

場 : PARCO劇場のチケットのもぎりのポジションが変わっています。劇場の上手と下手の劇場入口の前に係員がいるという体制です。下手側入口脇には、シャンパンを販売するコーナーが設けられています。ブロードウェイの劇場を彷彿とさせられますね。いいと思います。

人 : 満席ですね。年齢層は40〜50歳代が中心といった感じです。男女比は半々位。観る前から、少々前のめりで舞台に向き合う人たちが多い気がします。劇場内は、とても温かで良い雰囲気に包まれています。

  あの「ショーガール」が、三谷幸喜の手を経て2014年の今、見事に甦った。かつて、PARCO劇場が西武劇場と名乗っていた時代、福田陽一郎の作・構成・演出、木の実ナナ、細川俊之出演の「ショーガール」は、同劇場の代名詞とでもいうべき演目だった。都会的でお洒落な世界観に、憧れ、酔いしれた若かりし頃が、観る前から甦ってくるような気さえする。 

 大人が楽しめるショーと言うことで、自らが一体、どれだけ大人になっているのかという事などを、思わず反芻してしまう。しかし、そんな杞憂はいざ知らず、ただただ、目の前で展開されるステキなショーが堪能出来る楽しさに惹起していく。

 出演者に、川平慈英とシルビア・グラブの二人がキャスティングされたことが、新生「ショーガール」の“肝”である。両御仁共、数々のミュージカルやショーで大活躍していることは周知の事実であるが、この二人のカップリングが、いい意味でのバタ臭さを醸し出し、日常からかけ離れた世界を現出させる起爆剤と成り得ているのだ。

 舞台は同時期に同劇場で上演されている「君となら」と全く同じセットを、そのまま転用しているところがサプライズだ。東京郊外の一軒家の居間がメインのステージとなっており、同公演の観客の目にも、別の演目と本作とが舞台を共有していることは明白だ。故に、今見ている舞台の背景には、別のドラマがあるのだということが共通認識として持つこととなり、ある種の共犯関係にも似た親和性を観客に与えることに繋がっていく。

 襖が裏返るとミラーになっていたり、階段や敷居のエッジにはライトが仕込まれているする。上手に据えられたピアノで荻野清子が演奏をし、ベースとパーカッションのステージは2階の物干し台だ。この意表を突く楽しい設定が、日常から非日常へと誘う、まさに装置として機能する。

 東京都三鷹市下連雀に住む探偵の物語がアウトラインとなっていく。探偵は、川平慈英。その客が、シルビア・グラブ。他人の家に恐る恐る入り込んでいく体で、ステージはスタートする。

 一流のエンターテイナーを前にしたら、もう、その、魅力に取り込まれてしまうのが得策だ。あれこれと考えている隙間など微塵もない。強烈な磁力に目が舞台に釘付けになっていく。

 探偵を訪ねてきた女は、ある女の行動を調べてくれとの依頼をするのが物語の発端だ。探偵は調査をしていく内に、その女の虜になってしまう。しかし、そこには、ある秘密が隠されていたという、シンプルで分かりやすいドラマがミュージカル仕立てで展開されていく。肩の力を抜いて観ることが出来る、楽しさに満ち満ちている。

 物語を語るナンバーは、三谷幸喜と荻野清子が創作した楽曲で綴られていくが、日本の土着性を充分に活かしきった親しみある展開が、独自な親近感を生み出していく。そして、物語が締め括られると、イッツ・ショー・タイム!の始まりだ。スタンダード・ナンバーのメドレーが、程よい笑いを施しながら美声とキレの良いダンスで綴られていく。舞台と観客席が1つに融合していく。

 1時間のミニ・ショー・タイムは、観客を楽しませることに徹したエンタテイメント性に溢れ、楽しさ一杯の出来上がりであった。是非、また、シリーズとして続けていってもらいたいプログラムであった。


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