劇評106 

演奏の音が大き過ぎて歌詞が聞こえない。

「RENT」

2008年11月9日(日)晴れ 
シアタークリエ 午後6時開演

脚本・作詞・音楽:ジョナサン・ラーソン
演出:エリカ・シュミット
出演:森山未来、Ryohei(W)、米倉利紀、DEM(W)、田中ロウマ(W)、Shiho、
   望月英莉加(W)、白川侑二朗、安崎求、Eliana、Junear、彼方リキト、
   中村桃花、戸室政勝、YOKO、高良舞子、田村雄一
 
 
場 : シアタークリエ、2度目の来場だが、つくづく客の出入りを考えていない劇場だな、と思う。入る時は、まあ、バラバラに客は来るから、エレベーターで地下に下りればいいのだが、帰りが大変だ。まず会場の上下の端に通路がないので、タイミングを逃すと2本しかない狭い通路が詰まってしまい、いつまでたっても会場から出られない羽目になる。そして会場から出られたとしても、そこから地上まで、味も素っ気もない階段をひたすら上ることになる。夢は、即、現実に引き戻されると言った具合だ。
人 : ほぼ満席。女性が8割と言う感じ。年代は30代前後が中心といったところか。若過ぎもせず、年配の方もそれ程いない。流行の服装をしている人が多い。普段、演劇を観に来る層とは明らかに違うゾーンの方々が集まっている感じである。


 舞台中央には、森山未来演じるマークの住む部屋が、それ程大きくない可動式の設えでセッティングされている。背景はレンガ風の壁が立ち塞がり、やや下手上部にドアがあり、そのドアから鉄製の階段が下りている。美術は、デイビッド・コリンズ。従来の公演とは別の全く新しい解釈のセットである。ミュージシャンは、舞台下手の舞台上におり、そこで演奏することになる。



  新しい何かを期待していた。開場時の舞台上の美術を見て、その期待に応えてくれるかと感じたのだが、結果、新鮮な驚きを得ることは出来なかった。この公演はミュージカルではないですね。コンサートであると思う。「RENT」のナンバーを繋いで歌っていくコンサート。そう思えば、納得もいくのであろうが、ここで語られる物語、作品そのものに魅かれ、そのテキストやナンバーをどう活かして魅せてくれるのかを期待して行ったので、全くもって腰砕け状態であった。

 


  多分、出演者の皆さんは、ピンで歌の活動をされている方が多いと見受けました。稽古ではどうであったかは分からないが、初日が開けて3日目に見た限りでは、アンサンブルを考え、自分の役柄の思いや物語をどう伝えていこうかという方向性はチリチリバラバラになり、自分の歌のシーンをどう聴かせてやろうかという主張があちこちで目立つため、段々と興ざめしていった。あまり良く知らない方々の歌を聞きに来たのではない。「RENT」を観に来たのだ。そこを完全に勘違いしていると思う。

 


 ましてや、歌詞が全くもって聞こえ難い。時に、演奏の音が歌う声よりも大き過ぎるのはおかしいでしょう。歌、聞こえないんですよ。そして、役者(歌い手?)の方々も歌詞をしっかり伝えようとするよりも、勢いやノリの主張が強いため、はっきり歌詞を歌っていないというダブルパンチ状態である。この、歌詞を聴かせるというポイントがすっかり抜け落ちているのは、日本語が分からないアメリカ人演出家であるせいなのであろうか?致命的であると思う。




  そんな中でも、森山未来は、物語を伝えるということとパフォーマンスをどう主張するかのバランス感覚が優れていると思う。ロジャー役のRyoheiもいいのだが、内省的になりがちで、観客に発破を掛けることを躊躇しているように見える。米倉利紀は、役者ではなく歌手だなと思う。情感を込め歌を歌い上げるのは絶品だが、歌の中だけにしかコリンズは存在していない感じ。エンジェルの田中ロウマは目立つ役どころだが、カタチでみせてしまう浅薄さを感じてしまう。抱える重みや苦しみの度合いが薄味だ。白川侑二朗の歌ははっきり聞こえてきた。歌手ではなく、役者なのですかね。でも、繰り返しになっちゃうんですが、歌詞、音が大きくて聞こえ難いわけで、そもそも、そこのバランスが悪いので、もっと大きな声を出さなきゃみたいなことが、全体的に伝播しちゃのかもしれないですよね。そんな要因が作用していたとすると、皆さん、本当は本領を発揮出来ていないのかもしれないですよね。



  最後、スタンディングオベーションでしたよ。私の感想なんて、きっと少数意見なんでしょうね。皆んな、こんなに喜んでいるんですもんね。2ヶ月の公演であるが、回数をこなしていく内により良くなっていくのかもしれないですね。再訪することは、ないと思いますが。