FUTURE〜文筆家・勝沼紳一と企画者草川一が当て所なく繰り広げる四方山話〜

ネットのコミュニティについて、思うところ。 その弐          2007年8月11日

ところがね、ここから話が、あくまで俺的には興味深いことになっていくのだけど。Nチャンの親友から、丁寧な御礼メールが届いてね。早速、俺のお袋の主治医宛にメールを送ったら、学会で出張中の岡山から、深夜、急ぎで「僕でよけりゃ相談に乗りましょう」と。
今時、そんな良心的な先生もいるんだね。
口調は江戸っ子のベランメェなんだけどね(笑)。お袋の入院中も、とにかく対応は早かった。何をやるにも、看護婦を通さないスタンドプレイだから、ナースステーションは、いつも困ってたけど(^^;)。でね、彼女は早速、先生に会いに行き、医療データを吟味し、あらゆるケースを検証した結果、「かなりのリスクを覚悟するのなら、やってみる価値のある治療はある」と。Nチャンの親友は、ご母堂の入院中の病院のずさんで無神経な対応に、辟易してたために、この迅速かつ懇切丁寧な「診断」に、いちおう納得したわけさ。そして、その機会を作ってくれた俺も感謝され、はじめて「じつは私……」と彼女のプロフィールが知らされてみれば、なんと彼女はポップス系の作詞家だった。
ほぉー、それはまた面白いね。
俺はNチャンから、ほとんど彼女のことを聞かされてなかったので、正直たまげた。なんだ、広い意味で同業者じゃん、と。と同時に、急に彼女にシンパシーを感じだしたわけだ。それまでは、あくまで他人事だったけど、作詞家と聞いたら、ね?
どんな曲を書いてるの?
ま、具体例を挙げると、彼女が誰かわかってしまうのでやめるけど、ネット検索でわかる範囲でいえば、へぇーあの曲の作詞、彼女なんだ!! というのが幾つも出てきた。中堅女流ライターの一人。なかなかグーな詞を書くんだよ。表現が大胆だし情緒豊かだし。すっかり彼女の歌詞にホレた俺は、「なぁんだ、作詞家なら作詞家と言ってくれれば」と、すっかり気安い心持ちでメールの返事を書いた。というのも、俺の周りには、ご存じのように音楽関係者が何人もいるし、カミサンも地方のFM局出身だから、人間関係が限りなく「近い」との判断でね。
でも、彼女の名前は、今回の件で初めて知った?
そう。これってさ、よくよく考えりゃ、怖いことだと思ったわけ。Nチャンが、たまたまこの書き込みを「覗き見」た時から、すべてがあくまでネット上、メール上だけの人間関係で「つながった」気になっているけれど、当の俺は、作詞家である彼女の顔立ち一つ、知らない。昔なら、Nチャンから打診があった段階で、まず彼女と会うだろ? 会わずにコトを進ませるなんて、十年前ならあり得ない話だよ。彼女が仕事上、とても近しい人間が、もしや俺のカミさんの知り合いだったり……することも起きるだろうけど、でも俺は彼女自身を知らない。近頃、こんな希薄な人間関係を、当たり前に思う自分が、すごく嫌になってきたわけさ。
出会い系サイトで知り合い、一度もお互いの顔を見ないまま、メールのやり取りが盛り上がり、結婚しちゃうカップルも増えてるんだってよ。
ふむ……。続きはまた次回だな。