◎ 第4回「実践すること=表現すること」
 ◎ 講師:萩原朔美(多摩美術大学教授)
 ◎ 受講者数: 16名


▲ 前半 3月4日(木) 

タネあかし的に表現について解き明かしていきました。また、映像素材を観ながら映画(映像)の中にある表現について萩原氏の解釈から、様々な表現方法を発見させられる講義となりました。

表現するものというのは、私の中に何もない。全て、外にある。言葉は自分のなかにあるのではない。外部に存在するもの。起こった出来事、出会った言葉に更に触発され変換していくもの。

例えば、映画を作りたいと思ったら、すでにある他の人が作った映画(映像)を観て、そして具体的なイメージ(ロケ地等)があって作れるもの。

特に、映画は風・火・水で決まる。それらは、常に動いている不定形要素なのである。

淀川長治の自伝に、幼少の頃雨が降っていると、ずーっと見続けていたと書いてある。雨というチラチラするもの。実は映画の1秒間は24コマのフィルムに強烈な光を当てて映像となるチラチラの連続。人間はチラチラ動くものを観てしまう。淀川氏の映画好きはそこから始まっていた。太古の昔、人間もカエルと同じで、動かないものは見えなかった。そのかわり動くものには俊敏に反応していたのだが、生存していくために、進化し動くものが見えるようになった。そして、その名残からチラっと動くものに対し、観てしまう(反応する)のではないか。更に言えば、チラチラ感そのものが映像であって、実は内容など何もない。
風---

黒澤映画はある意味「旗」だらけ。これは、風を表現したいだけ。
映画でなければ表現できないもの。インチキの巧さ。あるはずのない、風・影の使い方。
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雨を強く表現したいとき。黒い雨、墨を降らす。水辺のシーンでは木や草にも墨を塗って水面をよりきれいに見せる。特に、映画の中の「水」は鏡になる。
濡れたべたべたのシャツは映画の中の時間を表す。雨はフィルターとなり、文字を滲ます。

実体験より映画での体験によって体験することのほうが多い。本当の美しい自然を見ても映画のようだ、と思うことがある。


(課題)映画のこのシーンが好きだ、影響を受けたというシーンは何か。



▼ 後半 3月18日(木)

エッセイストになりたければ、名刺を作ってしまうといい。そうすれば自然と友達との会話でも何でもネタ帳にメモることになる。同じく、映像作家はビデオやカメラを持ち歩く。

荒木経惟さんなんか、ド素人カメラをいつも持ち歩いている。
自分で表現者だと宣言すると、メモる。でないと、忘れてしまう。いいコメントなども覚える。頭の中で反芻(はんすう)する。つまり、自覚することが必要なのだ。「ゴダールの映画史」なんかも長くて退屈だけど、「強い映像とは、全く違うカットとカットがつながりである!」などと時々いい事言う。

萩原氏の暗闇でも書けるライト付ペンと手のひらサイズのノートを見せていただく。
テレコは一人でぼそぼそ録音していると周りから怪しまれる可能性がある。
ビデオが衰退する理由。今、本屋に巻物は売っていないように、頭出しインデックス機能がないものはすたれていく。

ビデオ映像を音の素材として使うビデオ映像素材、インスタレーションや装置を作品とするビデオアートを紹介。映像としての意味を持たない、映像としての意味を剥奪されている表現。

次に、講義時間内で可能な限りのアニメーションの映像素材から表現の手段を紹介。

カナダ政府が全額を負担し、油絵を一コマずつ撮影して制作されたアニメーション映画。
フィルムに一コマずつ傷をつけて(スクラッチ)制作された映画。こんな手法は今まで観たことがない、と萩原氏。
水彩画で制作された、表現の省略が見事な映画。など、多数の映像表現を紹介。

アニメーションとは、静止画が24枚で一秒を作る静止画の連続。映像とはこういうもの。映画の原点である動く絵の素材とは、24コマで一秒が作られていることを再認識させてくれる。サウンドトラックのラインを映像として見せてしまい、モノの音を表現したり、意味もストーリーもないが、光のシャワーを浴びるような不思議な映像など、実験映像の可能性を追求する映像作家の表現方法。劇映画以外にも様々な映像があり、そういうものから映像とはこういうものとわかる気がする。

映像にも、絵画のように抽象的な表現というものがある。最近、BS放送やケーブルテレビで実験的短編映画をチェックしている。つまらないけど、すごいものが見つけられる。







受講者の皆さんのアンケート結果
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◆講義のご感想・ご意見

今までにない感覚・視点で映画を観れてとても面白かった。この感覚を日常生活にも引っ張り込めたら面白いかなと思いました。
(会社員)

今回は純粋に大学時代に戻ったような感覚で講義を聞けました。映像から人間は臭いのだ。ピアス、縁側の話までとても愉快で興味深かったです。
(デザイナー)

自分だけでは考え付かないような物事への解釈の仕方が面白いです。
(イラストレーター)

あまり観ないビデオアートやアニメは面白かった。「事の次第」は笑えました。エッセイの話も更に深く聞きたいです。
(自営)

萩原さんはかなり飛ばしている気がしてエネルギーが溢れていました。ワクワクしました。また聞きたいと思いました。(ビデオ制作会社)

表現するということで、自分の仕事、家庭いろいろと通用すると思いました。(ビデオ制作会社)

表現方法の手段はいろいろあるのだなと感心しました。(アパレル会社)

映像を映像でない所から解釈させる手法が興味深かった。クイズのような方法で聞いている側との距離を埋めるのも入りやすかった。仕事帰りには少し辛い映像素材もありました。(夢先案内人)

講義とか堅苦しいものでなく和気あいあいとした大学の授業のようでした。人柄を感じられて楽しい時間を過ごせました。(ビデオ制作会社)

「人間は臭い」この言葉を口に出せる人。萩原朔美のアンテナの高さに感動しました。(役者)